「中学校美術Q&Ain北海道again」発表の様子
2013年8月10日
「中学校美術Q&Ain北海道again」のレポート
2013年8月6・7日に行われた中学校美術Q&Ain北海道againでは、二日間で60名以上の方にお集りいただき、多くの学びを共有できた会となりました。
※以下、中学校美術Q&Ain北海道againの様子を、中学校美術ネット運営メンバーの加藤がレポートさせて頂きます。
<基調提案>山崎 正明
北海道千歳市立北斗中学校教諭/中学校美術ネット代表
学習指導要領改訂の度に減らされてきた美術の授業時間。
これまでに山崎先生が美術教育の価値を訴える取り組みから感じられたことは、「意思表示をするから相手に伝わる」「つながりが力になる」ということ。
そして充実した美術の授業時間を残して行くためには、次回学習指導要領改訂について話し合われる時期を予測した2014年までに、一般の方にも「美術の授業も大切」と思っていただくことが大切!そのためにはまずは授業の質(Quality)を高め、そして美術教育の価値を訴える行動(Action)を起こそうという基調提案で、中学校美術Q&Ain北海道againが開催しました!
<実践発表>森實祐里
北海道札幌市立星置東小学校
総授業時間数は増えても、授業時間数減ったままの図工の時間(中学校の美術に比べ、小学校の図工の授業時間数は多いものの、授業時間数の減った割合は小学校の図工の授業時間数の大きい)。
その短い時間の中でも充実した学びを確保する、他教科と協調した授業づくりを大切にした実践を発表して頂きました。
発表頂いた「アイスランド〜氷の世界〜」の実践は、生活科の授業と合わせての授業。
パックに水を入れて色々な形の氷をつくってみたり、色水を凍らしてみたり、風船を使ってつららをつくってみたり。活動を通して起こる、子どもたちの試行錯誤や、気づきの様子と、その学びが他教科や次学年との繋がっていくことを発表して頂きました。
<実践発表>齋藤啓代
北海道小樽市立向陽中学校
「美術のデザイン」をテーマに、
○自己紹介、○三年間の美術の授業デザイン、○生徒指導と美術、○道徳と美術、○特別活動と美術、○総合的な学習の時間と美術、○学習環境と美術、というトピックについてお話頂きました。
齋藤先生ご自身が研究や学校の取り組みとして研修に携わってきた実践のねらいの紹介と、実践後の成果が、数値や割合からまとめられている観点と、生徒達の言葉や反応としての観点の二面からご紹介頂き、ひとつひとつの実践が確かな生徒達の成長の手応えが感じられる実践発表でした。
○生徒指導と美術、というトピックでは「自己指導能力を高める生徒指導」の参考として以下の4冊の本をご紹介頂きました。
「児童画のロゴス」著:鬼丸吉弘
「創造的人間形成のために」著:鬼丸吉弘
「原初の造形思考」著:鬼丸吉弘
「美術教育の創造」著:村瀬千樫
<実践発表>加藤浩司
三重大学教育学部美術教育コース院生/中学校美術ネット運営メンバー
「中学校美術ネット」ってなに?どうやってできたの?ということについて、
私(加藤浩司)自身のこれまでの活動と教育観の変容のあゆみの視点から、ご紹介させて頂きました。
<実践発表>牧井正人
福井県観光営業部文化振興課
中学校の美術の先生から、行政に活動の場を変えた牧井先生からは、行政と学校をつなぐ取り組みの福井県での実践についてのお話をして頂きました。
行政も美術を応援していること(各都道府県によって管轄が違うのでぜひ調べてみてくださいというお話もありました。美術教育に関わる事業をやっているところも多いようです。福井県は、福井県観光営業部文化振興課。 北海道は、北海道環境生活部安全局文化スポーツ課。 札幌市は、札幌市観光文化局文化部市民文化課。)や、またこれから美術教育を盛り上げて行くためには「文化」がキーワードとなるというお話を頂きました。
ネットでは「美術は気晴らし的位置づけで、中学校の美術は必要ない。」という声も上がってしまっていること。福井県の中学校では、約24%が体育、音楽の先生が美術を教えており、講師も増加傾向。職員会議など学校教育をどうしていくかという場所に美術の先生が不在という状況が出てきている。といった現状の問題についてのお話。
しかし「文化」についての大切さが見直されてきており、福井県では県を挙げて美術教育に力を入れ、「美術館にすべての子どもを」を目標に、美術館への子どもの来館者数を伸ばす取り組み(23年度約2000人、24年度約5000人から、25年度の子どもの来館者数は約25000人に!)についてのお話。
両方向からの側面を、笑いあり悲しみありそして歌あり(!?)でお話頂き、大変勉強になる発表となりました。
<実践発表>則友冴子
北海道札幌市立札苗北中学校
「心をほぐす美術」というテーマで学校での実践発表いただきました。
「さあ授業をやるよ。今日は◯◯をやるよ〜。」という導入だけでは、「なんで?」「意味ないじゃん。」という生徒達の反応が多く、なかなか授業に関心を持ってもらえなかった経験から、主に導入で生徒の心をつかむという実践の発表をして頂きました。
レタリングの導入では、色々な書体の「こんにちは」を、書体に合わせた発音で呼び分けてみたり。
遠近法の導入では、二つの四角をつかって遠近を表す構成を考えた後に、遠近のある絵を鑑賞し、どこが遠近を表すポイントになっているかを話し合うなど、鑑賞して感じたことや気づいたことを話し合ったり。
生徒達が批判的な言葉でよく使いがちな「ありえないんだけど!」という言葉を取り上げて、シュルレアリスムの絵の制作の導入では「ありえないんだけど!」と絵にツッコミを入れながら鑑賞し、「じゃあ何がありえないのさ?」という投げかけからシュルレアリスムの面白さを考えたり。
実際の生徒との話のやりとりの様子もお話し頂きながら、生徒の関心が高まっていく実践の紹介をして頂きました。
最後には「子どもたちの中に入ることも大切だが、集団の持つ力、集団の浄化作用、集団での学びも大切にする」ということを軸にもって、集団の高まりを個の伸長につなげ、それを認め合うことで集団の高まりにつなげる。ということを繰り返して授業を組立てるというお話も頂きました。
<実践発表>庄司展弘
北海道旭川市立北星中学校教諭
「題材の見直し〜自画像編〜」というテーマで、これまでに行って来た「自画像」という題材の変容の過程をご紹介頂きました。
「自画像」として取り組ませるだけでは、技法的な指導に力は入れ易いものの、生徒達に何を身につけさせたいのかが希薄になってしまっていたという振り返りから、
育てたい力を見直し続けることで、題材の見直しを続けた実践を発表頂きました。
自画像で育てたい力は絵を描くことだけでなく、「自己を見つめる」ということに題材の狙いを見直して、
実践と振り返りを繰り返し「自己を見つめて」→「自分が輝く瞬間(とき)」→「自分を表す」と自画像をテーマにしながらも題材を変えながら、
授業改善を行ったというお話からは、徐々に題材や制作活動の目的が明確になっていき、「自分を表す」という題材では“自分”は直接登場しない生徒作品も出てくるのですが、
「自己を見つめた」という想いがよく伝わる作品になっていることを感じました。
また、最後には「三年間の題材のバランス」として、
三年間で取り組む題材を一年生から三年生まで通してご紹介頂きました。
二年生にこの「自己を見つめる」というねらいで取り組んだ自画像題材が、
三年生の「10代の主張」という自分の想いを伝えるという題材につながっていくことで、
同じ自己をモチーフとしながらも、それぞれの力が段階的に育まれることが分かる内容でした。
<実践発表>水野一英
北海道札幌市立宮の森中学校
学習指導要領の作成に携わった水野先生からは、
「スープカレーとありがとう」というタイトルで、これまでの学習指導要領を“ルーカレー”、新学習指導要領を“スープカレー”、そして授業作りを“料理”に例えてこれらの構成と解釈について分かり易くお話しして頂きました。
ルーカレーとスープカレーの見た目や食べ方の違いを比較したり、授業計画(料理)をする上での具材とは何かを考える中で、共通事項についての取り扱いが、独立しているものではなく全ての題材に関わるつながりが分かるお話でした。
また後半には、授業のスパイスとしての「付加価値」という視点で、
先生自身の実践もご紹介頂き、美術は「ありがとう!」と言ってもらえる教科であるというお話を頂きました。
<講演>東良雅人
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
講演では、「全ての子どもは豊かな存在である。」という視点に立って、学習指導要領がどのように「授業作りの考え方、美術の授業の表現と鑑賞、それぞれの活動で育成する子どもの資質や能力」に焦点をあてているかというお話を頂きました。
<実践発表>神下朋実
北海道幕別町立札内東中学校
「自分をつくるもの」というテーマでランプシェードづくりを行った授業実践についての発表をいただきました。
◯何気ない日常の素晴らしさに気づく時間。◯自分を見つめる時間。◯友人と繋がる時間。を大切に、
子どもたちの会話のやりとりをご紹介いただきながら、導入から鑑賞までの授業の様子を段階的に発表頂きました。ひとつひとつの段階で生徒が苦労していたところ、一生懸命に集中していたところ、驚きや気づきがあったところがよく分かる発表を頂きました。
導入で先生が制作された参考作品を掲示する際に、制作方法ではなく作品に込めた先生自身の等身大の想いを生徒に伝えていた様子がとても印象的でした。
<実践発表>石川早苗
北海道札幌市立八軒東中学校
「自分の思いを作品にあらわすということで外とつながる。」ということを大切にした「思いをつなげる」というテーマで実践発表を頂きました。
思いををつなげていくためには、「アイデアスケッチ→交流→決定→制作」というの授業の流れの中で、特に「アイデアスケッチ」で大切にして、◯かいてみる・考える、◯つたえる想いをまとめる。◯ためしてみる・たがいに知る。◯自分を知る。◯つたえる・みてもらう。という5つのポイントについてお話し頂きました。
◯かいてみる・考える、の段階ではスケッチブックを持って帰らせることで、想いが閃いたタイミングで描き残すことができる工夫をされていたり、◯たがいに知る、という段階ではアイデアスケッチの交流会を通して相手の意見をきいて取り入れたり、あるいはその意見を作品に取り入れない場合もなぜそれを取り入れないのかという自分の思いを伝えることを通して、周囲の作品の思いや工夫だけでなく、自分の思いに改めて気づくきっかけにもなっているというお話が印象的でした。
<実践発表>中島圭介
北海道旭川市立緑が丘中学校
中島先生からは共同研究発表として2014年7月29日に開催予定の「全道造形教育研究大会」への取り組みを発表頂きました。
美術教育の危機が叫ばれる中で、子どもたちが豊かに自分の気持ちを表す時間を無くしてはいけないという背景から、これからの造形教育の方向性を示すことを目指し、今回は「喜びあふれる造形活動。喜ぶ姿。」をひとつの観点に取り入れているねらいをご紹介頂きました。
また「深める研究」と「広める研究」の二つを軸とし、
「深める研究」では、小中連携で取り組むことを試み、これまで校種で分かれていた研究会を、地区ごとのブロック制に変えて小中両方の観点から研究を深める体制を整えて取り組み。「広める研究」では、学校以外の場所も取り入れて活動し、美術館との連携や地域の人材を生かした研修会などの開催も研究の目標に位置づけての取り組みについてご紹介頂きました。
当日の研究大会では授業実践後の分科会でも校種で区切ること無く小学校の授業、中学校の授業は合同で行う等、小中連携に力をおいているところが大変印象的でした。来年度の夏はぜひ参加させて頂きたい研究大会です。
<実践発表>寺田実
北海道教育大学附属札幌中学校
インプットマニュアル型人間からの脱却。教えるよりも引き出すことを大切にし、「学びの主体者となる生徒」を目指す生徒像として取り組んだ、学校内での実践、また東アジアや韓国といった異文化の生徒達と学び合って来た実践を発表頂きました。
「学びの主体者になる生徒像」には他者から学ぶことだけでなく、他者に働きかけて行くことまで含めて学ぼうとすることを取り入れていれ、学校だけでなく学校の以外の場面でも学びの主体者になる生徒を目指すした取り組みを行っていることが大変印象的でした。
また授業改善にあたっては、常に、◯指示が多くないか、説明が多くないか、生徒の考える機会を奪っていないか。◯発想構想の経験、時間は十分か。
◯愛着が持てる作品になっているか。という点にポイントを置き、生徒の主体的な学びを大切にしている視点がとても参考になりました。
「中学校美術Q&Ain北海道again」のレポート
レポーター:加藤浩司
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