「中学校美術Q&Ain埼玉」発表の様子
2013年9月24日
「中学校美術Q&Ain埼玉」のレポート
2013年9月21・22日に行われた中学校美術Q&Ain埼玉では、二日間で80名以上の方にお集りいただき、多くの学びを共有できた会となりました。
※以下、中学校美術Q&Ain埼玉の様子を、中学校美術ネット運営メンバーの加藤がレポートさせて頂きます。
<基調提案>山崎 正明
北海道千歳市立北斗中学校教諭/中学校美術ネット代表
学習指導要領改訂の度に減らされてきた美術の授業時間。
これまでに山崎先生が美術教育の価値を訴える取り組みから感じられたことは、「意思表示をするから相手に伝わる」「つながりが力になる」ということ。
そして充実した美術の授業時間を残して行くためには、次回学習指導要領改訂について話し合われる時期を予測した2014年までに、一般の方にも「美術の授業も大切」と思っていただくことが大切!
そのためにはまずは授業の質(Quality)を高めること、そしてそれから美術教育の価値を訴える行動(Action)を起こそうという基調提案で、中学校美術Q&Ain埼玉が開催しました!
<基調提案>三澤一実
武蔵野美術大学教授
美術の授業時間数は減少傾向にあり「美術の授業は週に一時間。」という現状ですが、それを悲観するのではなく、これからの美術教育がその授業時間の中でできること、あるいはその時間外でできることは何かを見直すきっかけとして捉え、美術教育に携わる我々自身が創造性を発揮するチャンスだというお話を頂きました。
また「美術はメディウム(接着剤)」という言葉をキーワードに、“色・形・イメージ”という言葉でないコトバを持つ美術の性質とその鑑賞の重要性、“成績をつける”ことの根底にある“子どもを育むため”としての評価観についてのお話を頂き、これからの美術教育の役割について考えさせられるお話を頂きました。
<実践発表>未至磨明弘
東京都東大和市立第五中学校
“生徒が落ち着いて取り組める学習環境を作る”ことを目指していた中で、いつの間にか学校と学校同士・生徒と生徒同士の交流を減らしてしまっていくような“閉ざす”指導に傾いていったことに気づいたことをきっかけに取り組まれた、「美術を通して学校を開く!」という実践発表として「旅するムサビ」の活動を発表頂きました。
中学生にとって身近な大学生が自分たちの学校にやってきて、一緒に学校をギャラリーに変えて行ったり。大学生の作品を前にその作家から制作や作品に込めた想いについてのお話を聞いたり。そして今度は中学生の作品が学校の外を飛び出して商店街へ展示されるようになったり。
美術を通して、生徒と大人(教師や大学生)・学校と地域、さらにはそこから生徒と生徒、教師と教師、学校と学校、といった広がりも見られる実践について発表頂きました。
<実践発表>鈴木眞里子
埼玉県所沢市立美原中学校
「発見!生活の中の色・形」では、木のお皿、しょうゆさし、やかんなど日用品を、美しい作品として鑑賞していく導入から、身近にある色や形のイメージや役割について考えて行く授業実践や、友達同士の作品に感想やイメージといった“つぶやき”を貼りながら鑑賞を行う「ツイッター鑑賞会」の授業実践など、生徒にとって身近にあるものから広がり、深めて行く授業の実践をご紹介頂きました。
また制作後の作品は学校内の一室をギャラリーにして展示し、保護者会の機会を利用して生徒の作品を見てもらうなど、鑑賞を通して「つながる」実践を発表頂きました。
展示での工夫として、作品は作品、言葉は言葉としてではなく、「作品と言葉は補完し合いながら表現される」ということを大切にしているお話は、より広く深い「つながり」が促進される仕組みであると感じました。
<実践発表>栗原理恵
栃木県宇都宮市立宮の原中学校
「お気に入りの椅子」という題材から始まった授業改革(授業改善)の実践を発表頂きました。
「未来に何が欲しい?」と問いかけ、デザイナーの椅子や先輩の参考作品の鑑賞をしてから制作を始めて行った授業では、生徒達自身が自分の未来に対する想いをまとめたり、あるいはそれを表現するための材料を選ぶことに苦労してしまい、参考作品に近い作品が多くなってしまったことから、授業改革として導入に「椅子の観察」を取り入れることに。
ソファの中身、木の香り、革素材の柔らかさ、構造の強度、コストパフォーマンスなどを、じっくり鑑賞して考えて行くことで、まず椅子に対する具体的なイメージを広げて行きました。また制作に使うバルサ材は、板形状から作る組み立て式だけで椅子を制作していくのではなく、材料を積み重ねてから削り出す積層木工の制作方法を紹介することで、想い通りの形が作れる様に教材を工夫しました。バルサ材の着色の際に、変色してしまった失敗談などからは、生徒自身の自由な発想や、試行錯誤を保証するためにも、教材研究の大切さ・必要性があることをお話頂きました。
また美術部で取り組んだ部活動オリエンテーションCMのアニメーションでは、「絵で表す」「クレイアニメで表す」といったように表現技法を敢えて縛らないことによって、多様で生き生きとした表現がつくり出された映像作品を紹介頂きました。
<実践発表>鈴野江里
神奈川県横浜国立大学附属鎌倉中学校
「生徒が何を考えているのかをもっと知りたい。」→「生徒の思いを共有することで生徒によりそった指導ができるのではないか?」→「発想の引き出しを増やすことで表現が苦手な子どもの手助けとならないか?」という想いから始まった“発想ノート”の取り組みについて発表頂きました。
発表では、美術の授業は「自分の考えに合った技法や形式で表現できるようになる事」を目標としていることを軸として、試行錯誤し変容して行った“発想ノート”のあゆみを紹介頂きました。きれいにまとめたり、たくさん書けば良いという「ノート=提出物=評価」というイメージを払拭しながら、自分の思考の流れを時系列で可視化して留めておくものとして使い方が変わっていくことで、この美術の授業の目標である「自分の考え表現する」ための“辞書”のようなものが作られている様子をご紹介頂きました。
またこの“発想ノート”を創り上げて行った背景には「☆子どもの思いや考えに耳を傾けること ☆子どもの思いや考えを認めてあげること ☆子どもの豊かでおもしろい発想を認め、伸ばしてあげられる授業をつくること」を常に大切にしているというお話が大変参考になりました。
<実践発表>大杉健
東京都府中市立若松小学校
「小学校から中学校へ〜三つの取り組みから〜」というテーマで、
作家とコラボレーションして取り組んだギネス級の椅子を作るという「ドラゴンチェアプロジェクト」。
子どもたち自身が自分たちの作品(他学年で取り組んだ作品も含めて)について地域の人に鑑賞ガイドを行う「校内展」
そしてこんな椅子があったらいいな。あってもいいかもという思いから制作を始めていく「いすではなく、『い〜す』を作ろう」
という三つの取り組みについてご紹介頂きました。
それぞれの取り組みの中で子どもたちが作品を作るときの様子をご報告頂き、子どもたちが何を見ているのかということが分かる発表でした。またそれぞれの取り組みでは自然と活動を広げて行く中で、できあがった作品を展示し学校内に招いたり、あるいは地域など外に出向いて行ったりと、作品と制作を通して地域・先生同士との関わりも広がる取り組みを発表頂きました。
<実践発表>長尾菊絵
東京都西東京市立ひばりヶ丘中学校
言語活動を活用することで、自己を見つめて自己開示し、表現する活動から「つながる」美術を目指す取り組みについて実践発表頂きました。
美術自体が思いを表現するために自分の内側に入ってくいく活動、あるいは伝えることを目的とした制作では受け手の内面に入っていこうとする活動であることから、
言語活動を、文法や話法の修得を目的としたものに捉えるのではなく、「言葉をフックにして、子どもの中に降りて行き、子どもの思いを掬い上げる」ための活動として捉えて授業に取り入れた「絵はがきカルタ」、「絵文字お習字」、「いじめ防止カルタ」、「10年後の君へ」の実践のご紹介頂きました。
いじめ防止カルタでは、読み札を作る際に「youメッセージをIメッセージに」という工夫を与えるなどすることで、それぞれの実践でお互いの作品を抵抗無く鑑賞し合うことができるようになり、言葉をフックにお互いの思いを理解し合うという活動が、生徒と 教師という間だけに限らず、生徒と生徒同士の「つながり」が見える実践をご紹介頂きました。
<実践発表>大橋功
岡山大学大学院教育学研究科准教授
「美術教育のあたりまえが共有される日のために〜モノ(作品)づくりからコト(授業)づくりへ〜」というテーマで講演頂きました。
教師が授業で行う制作の導入と、子どもの側から捉えた制作の導入とそこから発想しようとしていくこと。それぞれの視点から、どのような思いと考えが生まれているかということを説明頂き、子どもたちは何かを生み出そうと向き合う時に、思いも付かない豊かな方法を持って発想していることをご紹介頂きました。
それらのお話から、授業を見直して行くためのポイントとして、
●見せるための成果(作品)づくり
●教師のイメージを生徒を使って表現
●技術指導は創造性を阻害するとの勘違い
をしていないか。
また、学校教育として行われる授業の中で、関係性の中で学びを開いて行けるような、
◯育てる資質能力が明確な授業
◯生徒の創造活動を引き出す授業構成
◯応答的・情報的環境、学び合える環境
となっているか。という観点について話頂きました。
<実践発表>小西悟士
埼玉県新座市立第二中学校
上手に描けない、自分の作品が恥ずかしい、面倒くさい、汚れるのがイヤ、自分にはセンスが無い。といった生徒が持つ美術に対する苦手意識を克服して行くために、みんなが好きになれる。おかわりがしたくなる。日をおくとコクがでる。といった「カレーライスのような授業づくり」を目指した実践を発表頂きました。
実践では誰もが取り組み易く、思いを詰め込み易い教材としてラミネート加工を使った授業や、イヤホンやベスト(洋服)、タンブラーなど生活の中で使ったり身につけたりする身近な題材を取り上げた授業を報告して頂きました。
また「生徒が自分に自信を持つ」ということを大切にした、自分自身のために贈る金メダルの制作する授業実践や、鑑賞での取り組みとして美術室にギャラリー(展示台)を作り展示したり、地域のスターバックスで授業で制作したタンブラーを展示するといった取り組みも紹介頂き、制作した作品を、どう展示して行くのか、何と繋げて行くのかという、教師が担うアートディレクションの役割についてもお話を頂きました。
<実践発表>鈴木彩子
埼玉県板戸市立桜学校
ご自身のこれまでの中学校での教諭経験を振り返りながら、「つながり」を通して授業改善を行って来た実践と、さらにその「つながり」を広げていくために立ち上げた授業研修会『び会』についての取り組みについて発表頂きました。
埼玉を中心に活動している美術教育研修会“彩ネット”に参加する中で、自分一人では気がつかなかった観点に気づいたり、そもそもの授業のねらいに立ち戻ったりすることができるようになったことで授業改善を行ってこれた経験と、長期研修教員として美術教育に関わる全国の様々な実践と取り組みを目の当たりにした経験から、
もっとつながりあい、広げたい、学びたいという思いで、「学び」、「遊び」、「喜び」、「美術」の「び」から名前をとった「び会」を立ち上げたお話を頂きました。
「び会」は二ヶ月に一度のペースで、都県・校種・年齢・経験年数をこえた実践交流と講演を行う研修会を開催しており、その研修会の中でさらに授業改善ができた「写真を使った授業」の実践の取り組み、「友人のイメージを描く授業」の実践の取り組みについてもお話し頂けました。
<実践発表>飯田成子
埼玉県朝霞市立朝霞第四中学校
進学に力を入れていた中学校の選択教科の中で「美術」が無かったこと。「美術は他の教科の先生にもできるでしょ」と先生内で言われたことをきっかけに、美術の指導について見直し、実践された取り組みを発表頂きました。
小学校の図画工作科から見直そうと、小学校の図画工作科専科として行った授業実践と、その素材経験から繋がる中学校での授業実践について報告頂きました。
中学校ではオリエンテーションとして、「想いを伝え合うのに必要な文学や音楽や美術。その中で言葉という壁を越えて通じ合える美術を勉強するとき、表現の上手下手ではなく想いを伝えるということ、そして相手の想いを理解するということを大切に学んでいってほしい」と話をする中で、人物画を中心とした自分を表現する取り組み、また友人を表現し合う取り組みをご紹介頂きました。
「中学校美術Q&Ain埼玉」のレポート
レポーター:加藤浩司
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