「中学校美術Q&Ain神奈川」発表の様子
2014年2月24日
「中学校美術Q&Ain神奈川」のレポート
2014年2月22・23日に行われた中学校美術Q&Ain神奈川では、二日間で108名の方にお集りいただき、多くの学びを共有できた会となりました。
※以下、中学校美術Q&Ain神奈川の様子を、中学校美術ネット運営メンバーの加藤がレポートさせて頂きます。
<基調提案>山崎 正明
北海道千歳市立北斗中学校教諭/中学校美術ネット代表
学習指導要領改訂の度に減らされてきた美術の授業時間。
これまでに山崎先生が美術教育の価値を訴える取り組みから感じられたことは、「意思表示をするから相手に伝わる」「つながりが力になる」ということ。
そして充実した美術の授業時間を残して行くためには、次回学習指導要領改訂について話し合われる時期を予測した2014年までに、一般の方にも「美術の授業も大切」と思っていただくことが大切!
そのためにはまずは授業の質(Quality)を高めること、そしてそれから美術教育の価値を訴える行動(Action)を起こそうという基調提案で、中学校美術Q&Ain神奈川が開催しました!
<実践発表1>森元勇気
神奈川県厚木市立睦合中学校教諭
「神奈川県のイメージカラーって何だろう?」という投げかけや、クラスメイトの素敵な所を紹介し合う「いいところカード」を導入として、
「あなたとわたしのイメージカラー」という題材で、クラスメイト全員のイメージカラーを作るという授業実践をご紹介頂きました。
まずクラスメイトそれぞれのイメージカラーをカードに塗り、その色を創った理由等を裏面に書き、交換し合う中で、相手のことを考えて楽しみながら色作りを考えたり、自分やクラスメイトのイメージカラーカードの鑑賞を通して、新しい色のイメージ、そして知らない自分やクラスメイトの側面との出逢いがある活動をご紹介頂きました。
<実践発表2>鷹野晃
山梨県北杜市立須玉中学校 教頭
「将来何の役に立つのか分からない。」この言葉は、どの教科にも子どもから問われる言葉ですが、受験教科でない美術は子どもからより厳しく問われているのではないか。また授業時間数と児童生徒数の減少によって複数校勤務の美術教諭が増加していることから、普段の子どもの姿が見えにくくなり、美術が子ども達の表現を受け止めることがどんどん難しくなるのではないか。
・・・美術はもはや「絶滅危惧学習」になっているのではないか。
という投げかけから、美術教育のこれからを考える発表を頂きました。美術の授業の4観点を子ども達の言葉で考えて掲示し学びを実感していくことができる授業づくり取り組みや、また今後人口減少の影響から「異文化理解」も美術教育のひとつの大きな意義になるのではないかという示唆をご紹介頂きました。
<実践発表3>濱脇みどり
東京都西東京市立田無第一中学校教諭
「自分の今」を、色、形、材料、方法、どうやって表すか。
対象の色や形、質感等のありように触れ、感じ、味わいながら、自分と向き合ったり、また見知らぬ他者に想いをはせてみるということを軸にした授業実践をご紹介頂きました。
学年が変わって行くにつれて一人一人の子どもの作品の「変容」していく様子、そして「変わらなさ」もご紹介頂きながら、その両方を大切に「一人一人の子どもがその人自身になっていく。そういう活動を提供し、見守り、支援していく」ことを大切にした美術の授業実践についてご発表頂きました。
<実践発表4>加茂千景
静岡大学教育学部附属島田中学校教諭
誰かと比べることで自分たちの価値をつくっていってしまう「対比」ではなく、向き合うこと、語り合うことで心の共鳴を引き起こし、新たな価値観を生み出して行く「対話」の活動を大切にした授業づくりについてご紹介頂きました。
ピカソの作品の鑑賞と、修学旅行の沖縄での体験のふりかえりをきっかけに、様々な対話を通して「命の輝き」というテーマで切り絵に取り組んでいった授業実践についてご紹介頂きました。
自分の表したい物に向き合い、黙々と制作に打ち込んだ後は、友達との鑑賞会を楽しみにする生徒達の活動の様子のお話が印象的でした。
<実践発表5>岩崎知美
神奈川県川崎市立田島中学校教諭
「地域と共に生きる美術教育」をテーマに、地域の人と、地域の場の活用、地域の素材や施設の活用した、美術教育の価値を発信するアクションに関わる実践。
「マイクラスキャラクターをつくろう」「掛け軸風にしつらえる」「街の中のカタチ」「伝える絵文字」といった、外と関わりながら取り組む実践や、外に発信する授業のクオリティに関わる実践について発表頂きました。
美術の活動を教室だけで完結させること無く、美術を教室の外へ広げて行くことで、美術自体の活動もより深まっていくことを強く感じました。
<実践発表6>田中 晃
川越市立美術館主幹
様々な美術館の取り組みの中でも、中学校美術科と連携した美術館の取り組み、「美術館利用研究会の編成」、「中学校1年生を対象とした夏の美術館ガイド」、「夏休みの中学生を迎える“びっくりアート”」、「川越市立中学校美術部の祭典の開催」、「図工美術わくわくフェスタ」をご紹介頂きました。
また美術館では困難なこと(すべての中学生に継続的な教育ができるわけではない等)、美術館だからできること(情報を広く学校にでき、集まる機会を提供できる。)をご紹介頂き、美術館と学校とが連携し子ども達の学びをもっと広げられる余地を感じることができました。
<講演1>天形健
福島大学人間発達文化学類教授
これまでの美術教育ふりかえるために、北川民次と久保貞次郎と「創造美育学会」、そして「新しい絵の会」の教育について解説・ご紹介を頂き、改めて描画行為から見とれる子ども達の認識の発達についてご講演頂きました。
「クレヨンを渡せば、線による形の認識を。色紙を渡せば、面による形の認識を促すことにも繋がる」というお話は、改めて我々が提供する環境のひとつひとつによって、子どもに促す影響が異なってくることに気づかされるお話でした。
<実践発表7>金阿彌勉
神奈川県横浜市立いずみ野中学校教諭
身近な素材を使った『鋳造』による制作をしていった授業実践をご紹介頂きました。金属という素材は生徒達にとっては新鮮な素材であるために、それだけが面白い体験活動となってしまわないように、その素材というの関わり中で何を学ばせたいのか。何を身につけさせたいのか。というところに考察を重ねた授業実践を発表頂きました。
生徒達が実際に鋳造制作を体験したり、そして作品を実際に使ってみての感想を報告する中で、素材の持つ魅力や特徴へ気づいていく様子をご紹介頂きました。
<実践発表8>荻島千佳
神奈川県横浜市立上飯田中学校教諭
ひとつひとつの題材でねらいとしている学びを何度も繰り返し問いかけ続けることで生徒達の力を「引き出させる授業」の実践発表を頂きました。
学びのねらいを明確に教師自身が持つこと。そしてその学びへの支援として、叱り、褒め、徹底的に問いかける関わり方が、生徒の力を「引き出させる」ことにつながっていくことを強く感じました。
<実践発表9>道越洋美
静岡県藤枝市立高洲中学校
日本の伝統文化を題材にした実践発表頂きました。
伝統文化の題材を通して何を学ばせたいのかを明確にし、花を生ける様子や伝統文化を守る人たちの生き方にも触れた鑑賞と、制作活動を繰り返していく中で生徒の力を育む授業づくりについてご紹介頂きました。
また発表の最後には「美術教師の感性を全ての教育活動に」というご提案頂き、子ども達と教師の取り巻く環境を広く捉えて教育に関わることの大切さを改めて感じました。
<講演2>東良雅人
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
「子ども達が自分の中で新しい価値をつくりだす創造活動」〜活動の主体者の内面に重点を置いた授業づくり〜というテーマでご講演を頂きました。
学習指導要領で示された観点を整理して解説頂き、さらなる授業改善の余地を確認することができました。
「中学校美術Q&Ain神奈川」のレポート
レポーター:加藤浩司