「中学校美術Q&Ain北海道again&again」発表の様子
2015年1月13日
「中学校美術Q&Ain北海道again&again」のレポート
2015年1月11・12日に行われた中学校美術Q&Ain北海道again&againでは、二日間で55名の方にお集りいただき、多くの学びを共有できた会となりました。
<基調提案>山崎 正明
北海道北翔大学教育文化学部准教授/中学校美術ネット代表
学習指導要領改訂の度に減らされてきた美術の授業時間。美術の授業時間を残していくためには、多くの人に「図工・美術の時間も大切」と言っていただくけるように、発信していくことが呼びかけられました。
そのためにはまずは日々の授業の質(Quality)を高めること、そして美術教育の価値を訴える行動(Action)を起こしていく、その二つをもって中学校美術Q&Aであることを確認しました。
今回は2014年11月20日に文部科学大臣から「初等中等教育における教育課程の規準等の在り方について」という諮問がなされた後の、はじめての「中学校美術Q&A」であることから、基調報告の中で諮問の内容の一部を読みあげるなど、「教育全体の中での美術教育を考える」ことが強調されました。
また現在「中学校美術ネット」で「意見書」作成に取組んでいるという報告がなされました。
全ては、子どもの幸せのために!
参加者のみなさんのアンケートから
- 美術の大切さをまわりの人に感じてもらえるようになりたいな。といつも身が引き締まる思いです。
- 伝えることで伝わるんだなとシンプルで大事なことに気づきました。
- これから先のことを考えてがんばりたい気持ちになりました。続けていただきたいです。
<実践発表1>亀井道敬 山形県朝日町立朝日中学校教諭
生徒の学びを展示する「美術の時間展」と、これまで学校で取り組んできた美術教育の活動、そしてこれからの展望についてのお話をしていただきました。
「美術の時間展」では、中学校美術Q&Aでの様々な先生たちの出会いをきっかけに開催を決意した経緯と、<まなび つながり ひろがり>をテーマにして展示した授業の内容について発表をいただきました。また学校内での美術教育の活動については、教室空間の整備、総合の中での活動、特別支援での活動など、授業だけではない側面からの活動をご紹介いただきました。
様々な先生たちとの出会いの中で生まれた授業への「視点の変化」についてお話、そして迷ったり悩みながらも「得た学びを返していきたい」という想いを持って美術の時間展をやり抜いていくお話からは「何か自分にもやれることがある」という勇気をいただきました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 亀井先生の思考が伝わってくる、わかりやすく、熱い発表でした。うまくいかなかったことなども教えていただいたのがとても勉強になりました。
- 新しいことを楽しくまずは始めてみるって必要だと思えました。
- 地域の為に美術が行動を起こせる。そんな新たな試みを自分もやってみたいと思います。
<実践発表2>寺林陽子 北海道札幌市立あいの里東中学校教諭
「基礎・基本と想いをつなぐアクション」というテーマで、中学一年生・二年生・三年生で取り組んでいる授業について実践発表をいただきました。
一年生で取り組む色の学習から、二年生の自画像、そして三年生のライトの制作のそれぞれの授業題材のねらいについて紹介をいただくとともに、これらの授業題材の系統性についてもお話をいただきました。特に二年生で取り組む自画像については、多様な生徒の作品の傾向を整理してご紹介いただいたと共に、記号化されつつある作品については「描きたいのに描けないのか。このように描きたいのか。」という視点を持って、その生徒一人一人がこれまでにどのような制作をしてきたのかということを丁寧に捉えながら生徒の活動を読み取っていく考え方が大変参考になりました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 自画像はなにか、というところをあいまいなままにやっていたので、わたしもその問いかけをしたいと思いました。
- 子供と自分の授業を丁寧に分析していることから、改善された授業なのだと驚きました!
- 「思いがあれば技術はあとからついてくるということに気づかされた」という言葉がとても印象に残りました。
<実践発表3>中山敦子 大地太陽幼稚園教諭アートディレクター
「夢見る力でつけた<芸術思考力>」というテーマで、大地太陽幼稚園で取り組んでいる保育活動について発表をいただきました。幼児期の子供達は、インフォーマルな毎日の生活の中で多くのことを学んでいく力を本来持っていること。そしてその経験の重なりが問題解決能力の基礎となっていくことについてお話をいただき、そうした学びを充実させていくために園の先生方が一丸となって取り組んでいるチームティーチングの活動について紹介をいただきました。いくつかのチームに分かれて先生方が様々な活動企画を行う「自主選択チーム」という取り組みでは、園児たちの様々な反応を紹介いただいたことが大変勉強になった共に、園児たちの様子を先生達でしっかりと共有しながら活動企画や改善に取り組むお話からは個々ではなく全体で取り組むことの大切さを強く感じました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 「小さいうちに大きな力をつける」というのが印象的で、このようにのびのび育ってきたこどもたちの力をのばしていけるように頑張りたいと思いました。
- 自分で考えて作ることを幼稚園からおこなっていくと、その後の子供の成長した時の感性が変わってくると思います。大切な体験ですね。
- 思いを子供が表現するために幼児教育が非常に重要であることを理解しました。
<実践発表4>舘内徹 北海道札幌市立あやめ野中学校教諭
舘内先生がこれまでに試行錯誤したり、いろいろな先生方のアイデアを参考にしながら取り組まれてきた授業題材の実践を幅広くご紹介ただきました。
和紙と光を使った授業題材や、スタンプを用いた文様制作、鳥獣戯画を導入とした授業、そして学校行事を盛り上げる学内掲示の取り組みをご紹介いただき、
中学校という限られた時間の中で生徒たちがとても多様な制作体験をしていることを感じました。
また文様制作ではデザインが習作として終わらせずに手ぬぐいやハンカチにしたり、鳥獣戯画を導入とした授業では現代風刺をテーマにしたりと、
生徒たちが授業での制作や作品を身近に感じながら取り組むことができる授業であることを強く感じました。
参加者のみなさんのアンケートから
- たくさんの実践の写真があり、先生がいろいろなことに取り組まれているのが素晴らしいと思いました。
- 装飾で学校内の生活空間を演出する経験は必要だと感じました。
- 様々な場面で美術を活用する術を教えていただきありがとうございました。
<実践発表5>椿野衣江 北海道札幌市立柏中学校教諭
「クロッキー」と「デザイン行動」についての授業実践をご紹介いただきました。
クロッキーの授業実践では、繰り返し行い積み重ねていくことで得られる力を生徒の作品の変遷を追ってご紹介いただきました。「<みる>から<みつめる>へ」という言葉が印象的でした。またデザイン行動をテーマにした表現の実践では、Tシャツ作って実際に学校行事で着て盛り上げたり、ユニクロと取り組んだ子供服の回収プロジェクトについてのお話をいただきました。子供服回収プロジェクトではポスター表現などを使って学校外へ働きかけていくことでたくさんの回収に成功できた実践を発表いただき、学校外である家庭や地域に実際に働きかける活動は、生徒たちにとってやりがいのある活動であったことを感じました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 発達段階によっての条件の変化など、大切なポイントがとても勉強になりました。
- だれかにプレゼントする作品をつくることで、子供達の視点が変わる。そこが大切だと思いました。
- デザイン行動って子供達が美術と社会をつなぐことができるなあ!と思いました。
<実践発表6>船越りえ 北海道札幌市立丘珠中学校教諭
「美術の先生修行日記」というテーマで、各学年ごとに取り組んでいる授業実践の発表と授業を深めていくうえでの難しさについて発表をいただきました。
1年生では「見える気持ち」というテーマで線を引くことから抽象表現へ向かっていく授業、2年生では様々な鉛筆表現から作品を作っていく授業、そして3年生では 「自画像」ではなく「自我像」というテーマで取り組んだ授業などを工夫点と反省点を合わせて発表いただき「技術や型を教えるタイミング」の難しさや、年間計画の中での長期題材についてのバランスの難しさについてお話しをいただきました。実践発表の後の、質疑応答では参加者のみなさまからもたくさんの意見が出され、美術の授業での<学び>がどのようにして起こるのかということを考えていくことができました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 自我像の取り組みにとても興味を持ちました。タイトル予想ゲーム(当てではなく)という言葉を大切にしているところに共感しました。
- 生徒とのコミュニケーションで生まれてくることって多いですよね。
- 目には見えないものことを視覚化する試みを数多く取り入れられていて良い実践をされているなと思いました。
<実践発表7>飯田成子 埼玉県朝霞市立朝霞第四中学校教諭
飯田先生が「人物」を柱とした年間計画の中で取り組まれてきた授業実践の変遷について発表をいただきました。
しっかりと見て描く作品を完成させていくことによって、生徒自身のやりがいや周囲からの反応が得られたことを感じながらも、
こうした授業について「これってどうなんだろうな?」と省みながら実践を変えられていったお話をいただき、
1年生での「動きをみつめて」2年生での「二人の物語」3年生での「自分の存在の証明」という授業実践を紹介頂きました。
生活の中で身近な存在である「人物」というひとつを中心的な柱としながらも、3年間を通して多様な関わりと制作体験があり、深まりと広がりがある授業カリキュラムの大切さを強く感じました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 二人の物語は、二人になると空気感が生まれるというのがなるほど!と思いました。
- 人と人、人と物、人と風景といった関係性の生まれる実践がとても素敵だと思いました。
- まだ
<実践発表8>神下朋実 北海道幕別町立札内東中学校教諭
生徒たち一人一人の活動の様子をみつめながら実践している授業の様子について発表をいただきました。
中学校で初めて美術に取り組む1年生のためのオリエンテーションムービーには、いろいろな制作活動の様子が見られとてもワクワクしました。
また「美術にしかできないことを!」「制作体験が幸せなものにあるように!」という思いを持って、美術としての活動を大切に行いながらも、一人一人が「自分で考えて生み出す!」という授業のねらいを持って実践に取り組まれている様子を事例を用いながら紹介頂き、 生徒たちが認め合いながら多様に発想できる環境と雰囲気を築くことの大切さを強く感じました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 子供の工夫を一緒に面白がれる雰囲気を先生発信でつくられているのが素敵でした。
- 題材も子供達の「やりたい!」を大切にできていることが、本当に素晴らしいと思います。
- 仲間との関わりを大切にした授業づくりが良いと思いました。
<実践発表9>更科結希 北海道教育大学附属釧路中学校教諭
地域に向けた生徒の展覧会「Art and We」に取り組まれた実践について発表をいただきました。
展覧会に向けて、作品の「発表」を意識した授業づくりを行うとともに、展覧会自体もそれが一つの協働制作として生徒たちの手でつくっていく実践についてご紹介いただきました。教員だけで授業作品を展示することとはやはり大きく異なり、生徒たちが展示するというところまで活動していくことを通して、表現・鑑賞の工夫が多様に凝らされていく様子が感じられました。
また実際に展覧会を開催することで、美術の活動を通して生徒たちが地域の人や卒業生たちとの関わりを持っていったことからも、生徒たちにとってたくさんの学びのきっかけが生まれる活動になっていることを感じました。
参加者のみなさんのアンケートから
- ぜひ先生のノウハウを広く発信していただきたいと思いつつ、わたしもぜひ展示会をやりたいなと思います。
- 「思いから突発的に始めたことでも続けていくと改善点が見えて来る」という言葉が響きました。
- 自分の学校でもできるかもと思いました。まずは学校内で行ってみたいです。
<実践発表10>市川雅基 北海道札幌市立稲稜中学校教諭
「3年間のつながりを通して造形活動の楽しさを実感させる授業づくり」というテーマで、学習指導要領を美術科の目標の視点から捉えた授業実践について発表を頂きました。
1年生、2年生、3年生での各学年ごとの授業実践をご紹介いただきながら、三年間を通しての学びの系統性がある実践をご紹介いただきました。3年間という見通しの中でつけてほしい力が身についている生徒の姿のイメージを持つことで、ひとつひとつの授業で大切にしたいねらいが明確に分かる発表でした。
また中学生という発達段階を踏まえながら題材の計画を立てる視点も大変参考になりました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 3年間を見通したカリキュラム。9年間のまとめとしてのミクストメディアなど、とても勉強になりました。
- 3年間見通してどういう力を身につけたら良いか。技法の指導はどこまでするのか。という整理の仕方を真似しようと思いました。
- 中学生の三年間の成長が作品を通して伝わりました。
<講演>東良雅人 文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
今回の講演では、まず美術の授業の時間の中で活動する生徒たちの姿を確認した上で、
試案という形で作り出されてから今に至るまでの学習指導要領の変遷と美術科が目指してきた教科の目標とその内容についてお話をいただきました。
そして知識基盤社会と言われる現在において、美術科においてはどのような期待が置かれているのか。またどのような課題があるのかを確認し、
そこから具体的な全国の授業実践事例を挙げながら、これから美術の授業において考慮していきたいことをお話しいただきました。
中学生という限られた子供達の時間の中で私たちは美術の授業を行っていることを改めて感じ、一つ一つの授業、そして3年間を通しての授業のねらいや目標をもう一度捉え直すことができる時間となりました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 3学期の授業づくりを早速変えたいです。子供の手元と表情をよく見ます。
- 美術の学習が普段の生活に感じさせる授業になっているのか。。。自分を振りかえって考えさせられました。
- もう一度見直すことができました。しっかり授業を改善していきます。
「中学校美術Q&Ain北海道again&again」のレポート
レポーター:加藤浩司