「中学校美術Q&Ain大阪again」発表の様子
2014年9月23日
「中学校美術Q&Ain大阪again」のレポート
2014年9月20・21日に行われた中学校美術Q&Ain大阪againでは、二日間で95名の方にお集りいただき、多くの学びを共有できた会となりました。
<基調提案>山崎 正明
北海道北翔大学教育文化学部准教授/中学校美術ネット代表
学習指導要領改訂の度に減らされてきた美術の授業時間。 これまでに山崎先生が美術教育の価値を訴える取り組みから感じられたことは、「意思表示をするから相手に伝わる」「つながりが力になる」ということ。 そして充実した美術の授業時間を残して行くためには、次回学習指導要領改訂について話し合われる時期を予測した2014年までに、学校を越えてより多くの人に「美術の授業も大切」と思っていただくことが大切であることを確認し、そのためにはまずは日々の授業の質(Quality)を高めること、そしてそれから美術教育の価値を訴える行動(Action)を起こそうという基調提案で、中学校美術Q&Ain大阪againが開催しました!全ては、子どもたちのために!
参加者のみなさんのアンケートから
- この研究会が続けられて来たことで授業改善ができた全国の先生がたくさんいると思います。本当に感謝です。
- 毎回自分もがんばって授業のクオリティをあげなければと思いました。
- 話を聞く度に、これからの美術について考えます。自分も東北でがんばります。
<実践発表1>ANEW次世代図工美術教師ネットワークチーム発表
伊藤 慶孝 大阪府堺市立浜寺中学校
中島 嵩 大阪府羽曳野市立峰塚中学校
橋本 侑佳 京都府同志社中学校
西岡 伸 兵庫県学校法人甲南学園甲南小学校
田窪 真樹 大阪府大阪市立大正中央中学校
若手教員達が地域を越えて交流を深めている「ANEW次世代図工美術教師ネットワーク」。このネットワークに参加してきた,公立と私立、小学校と中学校などの様々な立場の方々から、教員同士が学校を越えてつながることで生まれた授業実践やアクションについて発表を頂きました。
どの発表からも、教員同士が授業実践だけでなく悩みや思いを共有していくことによって、具体的な改善や解決の手立てを手に入れるだけではなく、それぞれの立場の先生に立ちはだかる壁に立ち向かっていく“勇気”も養われていることを感じました。そして実際に周囲にはたらきかける行動を起こしてみることで、新たな発見が生まれ、自分自身の大きな学びにもなるという価値があることを強く実感することができました!
参加者のみなさんのアンケートから
- いつも気にしている若手の人たちの活動なので、興味を持って発表を聞きました。若手ががんばるって大切なことです。
- 若いエネルギーを感じます。自分もそういう一人でありたいと思います。
- 若い方が頑張っていて、自分ももっと頑張ろうと思いました。
<実践発表2>
大西 智美 滋賀県草津市立新堂中学校
「小さなことでも、やってみることに意味がある。〜私を振り返る〜」という実践発表テーマで、大西先生がこれまでに取り組まれた美術教育の価値を伝えて行くアクションの視点から、授業ができる環境づくり、校内でアピールできる環境づくり、地域に発信された取り組み、授業公開をされた取り組みについてご紹介いただきました。
校内の先生とも上手く連携を図りながら取り組まれたアクションが印象的で、そのことによって美術だけでなく校内の教育活動全体が生き生きしていく様子を感じました。また「1人の100歩よりも、100人の1歩」というお話からも、ほんの小さなことでも多くの人と共に取り組むということの大切さが実感できた実践発表となりました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 自分にもできそうな改革をたくさん紹介頂いて、やる気・元気がでました!
- 人を巻き込む力がすごいと思いました。
- パワーをわけてもらったと思います。小さいことから自分もかけていきたいです。
<講演1> 佐藤 賢司 大阪教育大学教授
「<工芸>と<つくること>の思考〜今、あらためて美術の自明性を問う〜」という講演テーマで、「工芸」という概念について問い直して行くことから、「造形する」ということについて改めて見つめ直すお話を頂きました。
「美術」と「工業」の狭間に存在する「工芸」が、その両者の間のどこに線引きがあるのかという視点の限界を考えた後に、素材や方法との出逢いから制作を行っていった作家の作品鑑賞を通して、造形には有機的に生み出される行為があることを確認し、それらの行為や思考から育まれる力について考えて行きました。
「美術の自明性を問う」という副題の通り、絵画/彫刻/デザイン/工芸といったカテゴリーや、ラベリングされた技法のそもそもを辿ることで、造形することの価値についての新しい気づきがたくさんあるお話を頂きました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 立体作品を指導する時、これは主体的な表現なのか目的や昨日を持たせた表現なのか、技術科との違いは何なのかを疑問に持っていたので、それを改めて取り上げて頂いて良かったです。
- 美術と工芸の違いを考えることで、ものを作ることの本質に迫った気がします。
- 日頃の思い込みがいかに多いかということを思いました。どうしても「何か」にしようとする課題を作ってしまうので、それだけが価値ではないのだなと改めて感じました。
<講演2> 上野 行一 帝京科学大学こども学部児童教育学科教授/美術による学び研究会会長
「美術は教えられるのか」という講演テーマで、管理的な指導と放任的な指導の両端について、児童生徒が語る図工美術の授業の思い出のアンケートからそれぞれの問題点を確認し、生徒の思いや意図を受け止め問い直して行く中で自らゴールを決めて学習を深めていくことの重要性についてお話を頂きました。
またこうした学習と、これから学習指導要領の中でも重用視される21世紀型能力とがどのように関連していくのかを、鑑賞の授業の事例などから、子どもたちの中にはどのような思考が起き、どのような力が育まれているのか。そしてその学習を支えて行くためには教員にはどのような受け止めが必要なのかをお話頂きました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 特に自分自身も美術嫌いを増やしていないか。楽しく勝ちのある授業に向かっているのかを改めて振り返る時間になりました。
- 学びの過程をデザインする授業を三年間組み立てて行かないと・・・すごく深い宿題を頂きました。
- 子どもの視点に立って、美術教育をしようと思いました。学びのプロセスが大切だと思いました。
<実践発表3>滝田 知佳 福井県敦賀気比高等学校
「あなたの人生に残る美術をしよう」というテーマで、中学校勤務時に実践された中学三年生への義務教育最後の授業を中心に発表を頂きました。
「なぜ生徒は良い作品をつくることができないのか。どうしたら良い作品をつくることができないのか。」と悩む中、授業中生徒から作品を持って来られ「先生、これでいいですか?」と問われたことをきっかけに、誰にとって“良い”作品であるべきなのかを問い直したことを背景に計画されたこの授業では、ふりかえりシートなどを使って生徒と教師の一対一の関係を大切にし、生徒の想いを受け止めながら制作が進められ、できあがった作品からは、それぞれの生徒のかけがえのない「今」が強く感じられました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 三年生にとっての美術の時間の重みが感じられました。授業計画を見直したいです。
- 生徒との活動の中で育まれた実践に暖かい気持ちになりました。
- どうしてこんなにも丁寧に生徒と向き合えるのか驚きでした。いま自分が授業を行っていることを何なのか根底から考えさせられました。
<実践発表4>小林 大志 大阪府高槻市立第九中学校
「つながり」と「ひろがり」〜美術教育の新たな可能性を探る〜というテーマで、これまでの授業実践や地域と取り組んで来た活動についてご紹介頂きました。
少なくなった美術の授業時数の中でも、「普段の生活そのままが美術。生活の全てが美術」、「日常生活でInput。授業でOutput。」という反転の授業の視点を持って、生徒の日常にあるものの中から生まれて行く授業実践を紹介頂きました。
また地域との連携として紹介頂いた商店街のシャッターアートの取り組みは、地域に貢献をしていく活動でありながらも、学校を飛び出して外での活動を広げて行くことで、生徒達にとっても美術の楽しさも広がっている様子を感じることができました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 地域とつながってアートをする!とても大切なことだと思いました。ゆるキャラを市内全員で描いた同一教材をやろう!というのも、横の繋がりになって素晴らしい。実践してみたいです。
- 日常のすべてがアートというのは本当にそうだなあと思います。そのアンテナをはることができるように気づかせることも美術の授業で発信すべきですね。
- 地域との連携がすばらしくなされていて良かったです。社会に貢献する美術の力をとても感じました。
<実践発表5>城野知佐 大阪府松原市立天美西小学校
「子どもが思わず動き出す図工の時間のわたしたち」というテーマで、子どもが思わず動き出してしまう題材との出会わせ方や、子どもたちが抵抗無く扱える教材設定を大切にした授業実践の報告を頂きました。
またそれらの工夫の源には、子どもが楽しさや面白さに心を揺さぶられながら主体的に活動を行うことができる場づくりを大切にしながらも、子どもたちが思わず動き出した場面を見逃さず、子どもたちに心から尊敬のまなざしを送る教師自身も主体的な存在として捉え、子どもだけでもなく教師だけでもなく“わたしたち”で作り上げて行く授業づくりの大切さを感じることができました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 子どもたちの言葉かけのタイミングがとても参考になりました。
- 身の回りのもの、自分自身もうたがいながら、わくわくできる・視点が変わる面白い授業でした。
- 子どもがやりたい!と思うことが、いかに重要なのかを目の当たりにしました。
<研究発表>丁子かおる 和歌山大学教育学部教授
「造形表現を通して子どもの発達をみつめる」というテーマで、幼児教育における造形の役割から、子どもの発達についてお話を頂きました。
表現は年齢や発達において異なりながらも、どの年代にも共通して「やってみたい!表したい!」という思いがあることが表現の前提になり、ここに支えられながら学習が循環していくこと。また子どもの発達は、その周囲の文化によって大きく影響されることについてお話を頂きました。また美術教育における「人間形成」「知識文化を知る」という二つの方向性についてのお話から、今目の前の子どもたちには何が必要なのかを考えることができました。
参加者のみなさんのアンケートから
- 「やってみたい」「表したい」と思わせる題材を考え、そこに学ぶ価値を生徒達が見つけ身につけることがとても大切なんだと思いました。
- 自分は中学校という立場にいますが、幼児教育から学ぶことは多いなと毎回思います。「心の育ちを大切にする。」良い言葉だと思います。
- 子どもが自分の思いを持って、作品をつくっていることがとても分かりました。
「中学校美術Q&Ain大阪again」のレポート
レポーター:加藤浩司