「中学校美術Q&Ain秋田」発表の様子
2013年11月17日
「中学校美術Q&Ain秋田」のレポート
2013年11月16・17日に行われた中学校美術Q&Ain秋田では、二日間で64名の方にお集りいただき、多くの学びを共有できた会となりました。
※以下、中学校美術Q&Ain秋田の様子を、中学校美術ネット運営メンバーの加藤がレポートさせて頂きます。
<基調提案>山崎 正明
北海道千歳市立北斗中学校教諭/中学校美術ネット代表
学習指導要領改訂の度に減らされてきた美術の授業時間。
これまでに山崎先生が美術教育の価値を訴える取り組みから感じられたことは、「意思表示をするから相手に伝わる」「つながりが力になる」ということ。
そして充実した美術の授業時間を残して行くためには、次回学習指導要領改訂について話し合われる時期を予測した2014年までに、一般の方にも「美術の授業も大切」と思っていただくことが大切!
そのためにはまずは授業の質(Quality)を高めること、そしてそれから美術教育の価値を訴える行動(Action)を起こそうという基調提案で、中学校美術Q&Ain秋田が開催しました!
<実践発表1>田中 真二朗
秋田県大仙市立西仙北中学校
ー美術は身近にあるーをコンセプトに地域に根ざした題材「オリジナルドリンクデザイン」、「創作和菓子」の実践と、「地域を感じ、地域と繋がる展覧会」の展示企画についての発表を頂きました。
ご当地オリジナルドリンクデザインでは、生徒それぞれがパッケージデザインを担当する会社の社長になり、その商品の企画をしていくという展開で始まり、パッケージデザインの指導については、「教えれば5分で済むことかもしれない」ことを、あえて時間をかけて実際に市販されている飲料のパッケージを前に徹底的に生徒同士で話し合い学び合っていきます。そうして作品のアイデアが練り上げられていく間に、題材が自分のものへなっていき、生徒一人一人の「こうしたい」という想いが深まって行く生徒の制作の様子をご紹介頂きました。そこから生まれた作品からは、ふるさとの伝えたい魅力と、ターゲットに伝わる工夫がよく考えられた思考の痕跡が感じられました。
最後にお話し頂いた“子ども達の「こうしたい」が未来を作る。”という言葉がとてもよく感じられる、子ども達の想いを大切にした実践発表でした。
<実践発表2>高嶋 裕也
山形県山形大学附属中学校
学校で取り組んでおられる研究テーマ「対話力をみがき、実践力を高める授業の在り方」から、「モノとの対話。自己との対話。人との対話。」に焦点をおき、それぞれの対話によって得られた自己の主題に沿って作品作りをした授業実践の発表を頂きました。
表現と鑑賞を一体的にした「アードカードゲーム」の取り組みでは、羅列された作品群を対話を通して整理して行く中で、その中で自分の中にある「興味・関心」や「作ってみたい作品」の姿が具体的に見えてくる活動をご紹介頂きました。より具体的な部分に焦点を当てて行くことで、自分が魅かれる感性が必ずしも「美しい、きれい」だけでなく、「奇妙。謎めいた」ということに魅力を感じ深めて行く作品もあり、感性を広げて行く様子が分かる実践発表でした。
<実践発表3>木内 衛
秋田県由利本荘市立本荘東中学校
「美術とは何か」という模索からはじまった、これまでの13年間の教師生活の中での取り組みや気づきをご発表頂きました。
対話型鑑賞と対話を用いた鑑賞のそれぞれに取り組んだ授業や、見るだけでなく、においを嗅ぎ、食べて味わいながら五感使って鑑賞を行う授業からは、どのような気持ちや感性を育むことが今必要なのかを問いながら題材を設定している取り組みを紹介頂きました。
また教科の横(他教科)と縦(他校種)との関連性、そして生徒が主体的に学校、他校、地域全体へ貢献していくことの重要性についてのお話を頂きました。
<実践発表4>佐々木 俊江
岩手県宮古市立宮古西中学校
佐々木先生が地域の研修会で実践発表をされる中で、ご自身が日頃心がけている美術を通して子どもたちを育てていくための心構えをまとめた「よりよい美術教師であるためのルーティンワーク 17条」をひとつひとつを実際に取り組みの様子とともにご発表頂きました。(こちら岩手県教育研究会中学校美術部会の監修の下、小冊子にまとめて1冊200円で販売されています。)
17条の中の一部ですが、「教室環境を整える(みんなが道具を使い易い、分かり易い環境)。→生徒ひとりひとりを大切にする(名前を呼んで声かけ、作品にはコメントを添える)。→そして自分(教師)自身もその関わりのある方々に学び続ける(そして即実践する!)。」というルーティンの中で、主体的に生徒が制作に取り組み学校全体へ活躍の場を広げていく様子をご紹介頂きました。三年間の授業のふりかえりでは、生徒自身が自分の成長を実感するコメントがあり、確かな美術の学びのヒントになると感じる実践発表でした。
<実践発表5>小林 高太郎
秋田県仙北市立桧木内小学校校長
小学校の校長先生というお立場から取り組む、造形教育を学校経営の柱にした「子ども美術館」についての実践をご発表頂きました。
将来に生きて働く力として「感じる心」「自分らしくありたいと思う心」「共感する(できる)心」を基盤とした「ねばり強くものごとに取り組む力」を育むことを重視した造形教育についてのお話をいただき、学校内で、そして地域との理解・協力を得ながら、取り組まれたご様子を紹介頂きました。
造形教育活動をその中だけで完結させるのではなく、あくまでも子どもを育む教育活動のひとつとして教育活動全体との調和を大切にした「子ども美術館」では、学校の職員と児童全体で取り組むことで、学校の教育活動全体が生き生きとして行くご様子を発表頂きました。
<実践発表6>池野 吉洋
山形県山形市立第七中学校
「“動く”ことからはじまる」生徒と生徒、生徒と地域、生徒と道徳へと深化していく実践発表についてご紹介頂き、それが未来ががつながる力を生み出そうとする試みや、試行錯誤しながら作ろうとする生徒が主体的に取り組むことができる授業実践についてご発表頂きました。
またその中でも、さらに新しい授業観を更新し続け、授業実践が劣化したり、題材が子どもと乖離しないように話題性や現代性のある授業、また崇高なばかりなものではなく、エンターテイメントに焦点をあてたプロジェクトマッピングなど、現代のメディアの中にもある現代的な授業の実践の様子につい発表頂きました。
<実践発表7>高安 弘大
青森県平内町立小湊中学校
美術で学んだことが、生きて働く力となっていくために、「地域とつながること」、「地域素材の活用」を軸に、地域商店街の「包装紙のデザイン」の取り組み。そして美術館や地域の大学と連携した鑑賞の授業実践についての取り組みについてご紹介頂きました。
積極的に学校外と結びつきながら行われる実践からは「つながることで生まれる」という可能性を強く感じる発表となりました。また生徒にとってだけでなく、教員も同様に外へつながりを持っていくことで結果的に生徒へよりよい学びを生み出して行けるヒントが得られるというお話をいただき、「つながる」ということについて生徒と生徒、生徒と教師だけでなく、教師と教師についても考えたくなる実践発表を頂きました。
<実践発表8>黒木 健
秋田県立西目高等学校
高校美術の教育現場のご経験から、高校美術のQ&A(質と美術教育の意義を広める運動)をテーマにおき、今回は特に「高校美術Q&A」のActionの部分についてご紹介頂きました。
そしてまた積極的な授業公開・紹介を続けることで起こってくる、教員・地域からの励ましの声、そし生徒達の声聴かいてからも分かるように、そのような活動を続ける中で一番喜んでくれるのは生徒自身であるということがよく感じられる実践発表をいただきました。
<実践発表9>相馬 亮
福島県学校法人桜の聖母学院中学・高等学校
一週間の間で小学校・中学校・高等学校の授業を行う相馬先生からは、広い発達段階の中でも様々な悩みが増える中学二年生の“自画像”の実践発表を頂きました。
生徒の発達と現状に合わせて「自己の内面を見つめる」、「自己の内面を可視化する」という発想・構想ワークを踏まえた、絵は使わない制作の取り組みをご紹介頂きました。
発表の中では意図的に仕上がりを同じように仕上げる作品のため、作品の見た目からは制作のプロセスを読み解くことが難しいという問題点についてふりかえりもあり、生徒の“今”と“その先”を見つめ授業をつくっていことの難しさと大切さについて考えさせられる発表をいただきました。
<講演1>有賀 三夏
東北芸術工科大学研究員/講師
中学校で講師をしていた際に「芸術はなぜ必要なのか?」を問われ、その理由を上手く伝えることができなかったことをきっかけに渡米をし、その理由を分かり易く説明できる理論を模索していった有賀先生ご自身のあゆみについてと、その中で出逢った心理学と芸術学を合わせた「アートセラピー」そして「多重知能理論」についてのお話を頂きました。
芸術は人生の様々な要素を充実させたり、要素をつなげて創造する働きについておはなしをいただき美術教育の意義を再確認し、またその意義の多様な広がりを感じることができる発表を頂きました!
また講演後の質疑応答では、疑問点についてひとつひとつ整理してご説明頂き理解の深まる充実した時間となりました。
<実践発表10>小野 浩司
福島県郡山市立芳山大島小学校
ご自身がどのように図工教育に関わりを持つようになったかというライフヒストリーと、「本当に“生徒に寄り添う”ことはできるのか。“学習者自身を主役にする”と言っても、実は指導者の押しつけになっていないか。」という疑問から取り組まれたコミュニケーションを軸に据えた取り組みを“承認のコップを満たす”というテーマでお話し頂きました。
伝える。伝わる。受ける。受け取る。中でこどもたちは何が起こり・残るのかを、実践された授業をその学習者の思考や心の動きにフォーカスした視点で発表を頂く中でご紹介頂きました。
<講演2>天形 健
福島大学人間発達文化学類教授
「今、あらためて『芸術による教育』とは?」というテーマで、子ども達の絵の発達の様子から「彼らが何を認識し発見しているのか。」という発達の分析と、声かけや手だてによってその認識を促す教育についてのお話から、美術は何を「通して」何を育むことを目指すべきなのかを、基礎と基本という言葉について整理していただきならお話を頂きました。
また表現を繰り返す中で、認識が発達し、それを見せたいという想いが生まれること、そして表現に照らして自分自身が見えてくる成長過程についてのお話も頂き、これからの美術教育の強い励ましとなる講演を頂きました。
「中学校美術Q&Ain秋田」のレポート
レポーター:加藤浩司