岐阜県中美研
2011年12月2日
平成22年度 岐阜県研究の方向について
1,研究テーマについて
3年生の美術のオリエンテーションでは、戦争に行く5分前まで妻の肖像画を描き続け、 「帰ってきてからまた描く」と言い残し出征した戦没画学生「市瀬文夫」の作品鑑賞をしま した。
A子は、その振り返りに「絵を描くことは、その人が生きることだから、私が作品をつく ることは、私の存在を残していくこと」と書きました。A子は、夢や希望を持ちながらも、 将来の不安に揺れ動き、悩みながら生活している生徒でした。半ば「絵を描くことなど、ど うでもよい。」そう考えていた彼女が、授業から「今の自分が作品を残すこと」の意味を敏 感に感じ取ったのです。私はこの揺れ動きながらも自分を見つめ、考える力こそ、今、目の 前にいるA子たちにつけるべき力、見方、考え方、感じ方だと考えたのです。
今、美術教育は危機に直面しています。今こそ、美術教育のコンセプトの変換が求められ ています。美術教育の原点回帰をねらった「心をえがく 色・形」は、そのための研究テー マと言えます。
これまで私たちは、テーマの「色・形」を研究実践の大きな柱とし、成果を残してきまし た。しかし、見た目のおもしろさ、斬新さといった、教師の自己満足に終始したものも多く ありました。その結果、作品から制作した子どもの願いや感動が感じられないもの。本来つ けなければならない力を十分につけることができなかったものがあることも事実です。
美術で生み出される作品とは、教師の都合で斬新さやおもしろさを競うものではありませ ん。子どもたちの心を紐解き、願いを持たせ、何度も試行錯誤させながら、その心を「色・ 形」にした結果です。そこには生徒の新たな発見や感動があるのです。作品を生み出したの は子どもです。だからこそ、「心をえがく 色・形」の「心」の部分に目を向けた研究実践 を積極的に行っていく必要があるのです。
美濃大会への研究初年度として、私たちのすべきことは、その目の前の「子ども」の発達 段階、地域性や生育環境、学習集団の意識、意欲、見方・考え方・感じ方から、「心」をし っかりととらえること。そのとらえから、どのような力を付けなければなならないのかを具 体的にし、それを具現化するための手だてとして題材を位置付けることです。そのため、研 究そのものは、題材開発、指導過程、1単位時間など、これまでと変わらないものです。し かし、「つけたい力」を、単に技能やテクニックだけでなく、生徒が身につけなければなら ない、見方・考え方・感じ方まで含めた「造形表現力」とし、研究テーマの「心」を中核と した美術実践を研究していきます。
3,研究内容1について
私たち美術科にとって、題材開発は命です。しかし、これまで生徒に力を付けることなく、 教師の自己満足やわがままともとれる題材がありました。それらを、もう一度、生徒の「心」 というフィルターにかけ、題材の見直しをします。具体的には、目の前の生徒の発達段階、 地域性や生育環境、学習集団、意欲、見方・考え方・感じ方から、今、どういった実態であ るのかを具体的に分析し、「つけたい力(造形表現力)」明確にもたせた題材にするという ことです。
4,研究内容2について
題材が設定されれば、具体的な指導と、評価が行われます。生徒の「つけたい力(造形表
現力)」を育むためには、まず、題材の「いつ」「どこで」「どのように」力を付けるのか が具体化された指導過程にする必要があります。また、生徒の願いを色や形で具現化するた めの個に応じた指導と、評価を工夫することが必要です。
5,研究内容3について
美術の授業の作業の時間ではありません。「つけたい力(造形表現力)」を生徒たちが獲 得する学びの時間です。そのため、1単位時間で生徒が感動とともに、「できた・わかった」 と感じ、自分の成長や発見を実感できる授業展開にしなければいけません。
そのため、とくに今年度は「つけたい力(造形表現力)」を指導するために、「なにを」 「どのように」「どのタイミングで」を明確にした意図的な資料提示の在り方を具体的にし ます。作品に込められた人の生き様を感じることは、生徒に驚きと発見が生みだし、さらな る追求のエネルギーを生み出しますものです。
(紹介 山崎正明・北海道)
レポーター:山崎 正明