山形県造形教育研究協議会
2011年9月9日
大会主題
「豊かな創造的活動をもとに、学びをつなげる造形教育」
-かかわり合う力を大事にして-
はじめに
西置賜造形教育部会で「子ども達が図画工作・美術を学んでどんな人間になってほしいか。」と調査したところ、 「興味を持ってものを作る人、進んで芸術作品を鑑賞する人」という声が多かった。私達造形部員は、子ども一人一人に「美」という価値に積極的に関わっていく人になってほしいという願いを持って いることを改めて認識することができた。
本研究を進めるにあたり、前述のアンケートの結果を踏まえながら、 「生涯にわたって造形活動を愛好 する人間を育てたい。」という土台に立って、研究を進めたいと考えた。
1.主題設定の理由
( 1 )これまでの研究の成果をベースにした研究に
西置賜地区では、平成10年度の県造形教育研究協議会・長井西置賜大会で「感性をはぐくみ、思い を豊かに表現する造形教育」をテーマにし、研究実践を発表した。
めざす子ども像
◇自分の思いにこだわりを持ち、意欲的に自己実現を図ろうとする子ども
◇基礎基本を身につけながら、創造性豊かに表現できる子ども
◇自然・人間・ものとのかかわりを通して、自分の思いを豊かに表現できる子ども
その内容は、《感性》を育みながら、子どもたちの表現したい気持ち《患い》を授業の中で、どのように引き出し、深め、広げていくか、そのために、題材や素材、子どもを取り巻く人間関係や自然環境を含む、生活圏すべてを《感性》や《患い》を育む「造形環境」ととらえ、子どもを取り巻く地域文化とのかかわりという視点を大切にしながら実践を積み重ねてきたものだった。
西置賜の研究の成果は、その後の研究実践にも引き継がれ、基礎基本(つけたい力)を明確にしながら、子どもの思いを豊かに表現するために、「題材との出会わせ方」や「豊かな表現のための鑑賞」などに焦点をあてて研究を進めてきた。
(2)県の研究主題との関連から
県の研究主題「豊かな創造的活動をもとに、学びをつなげる造形教育」は、西置賜地区が今まで取り組んできた主題をさらに発展させた内容ととらえ、県の研究主題と同一研究主題を設定した。 そこで、今回の発表では、「学びをつなげる造形教育」に創造的活動を追求する手だてや方法を重視した研究にしたいと考えた。 造形教育の中の「学び」を「自分らしい価値(美への思い、おもしろさなど)を創造していくこと」ととらえ、家庭・学校・地域・それに社会へと創造性を自己実現(自分が表現しようとしたものができたという成就 感や達成感)していく姿を「学びをつなぐ」と捉えた。
これまで積み上げてきた創造的活動の実践を土台にして、自分と他(子ども同士のかかわり、地域とのかかわり、幼保・小・中とのかかわり)の中で、新しい価値を見出したり、造形活動の楽しさを味わった りさせたいと考えた。
特に、本研究では、造形活動の授業の充実を図るため「かかわり」という点を重視して研究を進めてきた。
(3)サブテーマ《かかわり合う力を大事にして》について
■造形教育のねらいから
造形教育の果たす役割を次のように捉えた。
☆思考力・判断力そして表現する力を育てる。
☆創造性を育む造形体験の中で、形や色などを基盤としたコミュニケーションを通して、生活や社会と豊かにかかわる態度を身につけさせる
☆美への価値意識を育て、生涯にわたって主体的に創造活動にかかわっていく態度を育む。
つまり、造形教育では豊かな生活を送るために、自分自身がよい環境を工夫してつくり出すことに必要 な創造力や表現力を、基礎・基本から学んでいると言えるD創造性や豊かなかかわりは、人やもの・地域・
研究部長 村上茂- (致芳小)環境などとの様々なかかわりを通して、お互いの関係を確認し、より深いつながりを兄いだすことによって、 人間として大切な価値を発見し、現実社会に生きる力として人間力を育むことができるのではないかと考えた。
■子どもを取り巻く環境や実態などから
子ども達を取り巻く環境は、大きく変わってきている。情報量の過多、人間関係の希薄さ、それにゲーム による遊びの変化である。このような社会の変化で子ども達のコミュニケーションの能力などの教育的課題も 浮き彫りになってきている。
また、ここ数十年学校教育では、 「個性の尊重」が諏われ、実践されるようになってきた.しかし、それ が子ども同士のかかわりを重視せず、分断化する「個別化」が強くなっているように感じる。 「個別化」を進 めていくことは、学びが教師とその子どもの枠内に限定され、子ども達の交流の機会を奪うことになり、コミュ ニケーション能力の低下につながってきている。
そのため、造形教育では次のような「かかわり」を大切にする必要があるo構想を練るときは、友だちと アイデアの交流を囲ったり、友だちと考え合ったりすることで思いを広げていくことができる。また、表現活 動では、個人でできないことも友だちの協力を得たり、共同で活動したりすることによって実現できることも ある。表現途中の作品を見合う中から表現のヒントを得たりすることもある。鑑賞では、互いの表現意図を 知り、友だちのよさを述べたり、友だちから認められたりすることに表現の喜びを感じていく。
さらには、教室や学校という狭い空間にとどまらず、地域の特性を生かして、様々な人・施設・行事それ
に特産物などとのかかわりを用いて、子ども達の学びを実生活さらには地域の伝統・歴史につなげていく。
そして、造形教育のあり方を幼保・小・中と分けて考えずに、教師がお互いの造形教育のあり方を語り合ったり、
園児や児童、児童や生徒が一緒に作品を作り合ったり、作品を見せ合ったりしながら、創造的な学びを未来 へとつなげていく。
このようなコミュニケーションの体験が子ども達の社会性や創造性、そして感性をのばしていくことになっ ていく。
サブテーマは、様々なかかわり合いの過程で発想し、構想し、創造力を培うという美術のねらいを実現す ることができるという仮説に基づいて設定されたものである。
そこで、本地区では、この「かかわり」について、「子ども同士のかかわり」 「地域とのかかわり」 「幼保小 中とのかかわり」の3つの視点で考えることにした。
2.研究の推進について
(1)めざす子ども像
自ら積極的に様々なかかわりを求めながら自分の構想を高め、より豊かに表現していくことのできる子ども
(2)研究の仮説
さまざまなかかわりを大切にすることによって創造性や感性を伸ばしていくことにつながり 未来へ社会全体へと学びをつなげる子どもが育つのではないか。
(3)研究の視点
○子ども同士のかかわりから学びをつなげる
・友だちの作品のよさを見つける「鑑賞」の工夫
・作品づくりで、友だちの作品を自分の作品に生かすことができるような工夫 ・友だちと協力して、一つの作品となるような題材
・ (描けない子・作れない子) かかわりから描ける、作れるへ
○地域とのかかわりから学びをつなげる
・子どもの思いや学びが生かされる地域素材・地域行事の発見
・地域の美術館とのコラボレーション ・子どもの創造性を地域に返す作品展示
〇校種間(幼保・小・中)のかかわりから学びをつなげる
・子ども同士の造形遊びを通した実践
・幼保小の合同研修会の企画 ・小中連携を通して、図工から美術へ
(研究紀要より転載 山崎正明)
レポーター:山崎 正明